
レトロウィルスはRNAを遺伝子物質として持つウィルス
レトロウィルスとは名称の頭に“レトロ”とあるようにウィルスの世界では古いタイプのウィルスになります。ウィルスは、大きく分けて遺伝子物質がDNAタイプとRNAタイプに分けられレトロウィルスは、RNAを遺伝子物質として持つウィルスです。

ウィルスは生物ではありません。
まず、ウィルスとは生物学的には生物ではありません。自己の能力のみで増殖できないからです。ウィルスは、宿主となる細胞にウィルスの遺伝子物質(DNAもしくはRNA)を送りこみ、宿主細胞の合成能力を使ってウィルスを作らせ最後は細胞を破壊して大量に作らせたウィルスを宿主細胞外に放出するのです。
【参考記事】細菌とウィルスの違い。食中毒は何故起きる?
レトロウィルスの弱点
レトロウィルスは、RNAを遺伝子物質に持つことによって、弱点となりえます。
RNAはDNAに比べて不安定で変異がより入りやすいと考えられており、変化しやすい特徴を持っていますし、RNA分解酵素はほぼすべての生物が持っていますし、RNA分解酵素は天然の酵素としては最も安定性に優れた壊れにくい酵素であるため、RNAを遺伝物質として利用することはリスクが大きいと言えます。

さらにRNAを遺伝物質として利用するためには、高等生物が持っていないRNAからDNAを作るために“逆転写酵素”が必要になります。この“逆転写酵素”は、高等生物が持っていない酵素ですし、レトロウィルスの増殖には欠かせない酵素であるため、治療薬の標的の一つとして利用されています。
つまり、理論所は高等生物が全く持っていない性質の部分をいくら阻害しても副作用は殆ど無いということになります。よく知られたレトロウィルスとしてエイズの原因であるHIVウィルスがありますが、以前、HIVは治療の難しい病気でした。しかし、現在ではこの“逆転写酵素”を標的とした薬剤を含む複数の薬剤の同時投与によりHIVに掛かっていても他の人に感染させないほどのウィルス保有量にまで抑制することが出来るようになったとのことです。
ウィルスに感染された細胞
DNAを遺伝子物質として持つウィルスの場合は、治療薬の標的がウィルス自身もしくは、ウィルスに感染された細胞ということになります。細胞を攻撃するような薬は標的とする部分の選定が難しいですし、細胞を攻撃する場合、健康な細胞も標的となる可能性が高くなるため開発に時間が掛かってしまいます。
ウィルス自身を標的とする手段としては、皆様が接種したようにワクチンがあります。ウィルスはご存じのようにすぐに新しい型が出現し易いためワクチン開発が鼬ごっこになってしまいますが、特徴的な構造を標的として日々ワクチンのデザインがされているのです。
【参考記事】細胞ってなに? 細胞の役割ってなんだろう?
ウィルスは役立つ存在
この様にウィルスは厄介な存在ではありますが一方で高等生物での遺伝子操作には欠かせない存在でもありますし、ウィルス進化説(ウィルスの感染によって進化が起こるとされる進化説)を考えている方もいらっしゃいますし、私も進化の一部としてウィルスの貢献もあったと思っています。
さらに、現在、ウィルスを使ったがん治療の治験も行われています。このウィルスによるがん治療は、手術、薬物療法、放射線に続く第4の治療方法として注目されています。

ウィルスはいない方が良いと思われるかもいらっしゃるかもしれませんが、過去から現在まで厄介な存在でもありますし同時にいろんな場面で役に立っている事もある存在であることを覚えていて欲しいと思います。