枯れた草にいる菌
枯草菌と漢字を見ると“草を枯らす菌”だとイメージされる事が多くありますが、そうではなく“枯れた草にいる菌”と意味で枯草菌と名付けられました。この枯れた草に多くいる理由は、枯草菌は栄養状態が悪くなると胞子(種子のイメージ)の状態に変化し、乾燥や紫外線に耐性があるためです。
科学雑誌に掲載
枯草菌は、グラム陽性細菌のモデル生物に選ばれ、日本とヨーロッパを中心にした多くの国と研究室が共同作業でゲノムの配列決定を行い、2000年に自然科学分野で最高峰の科学雑誌の一つであるNature誌に掲載されました。
経験と技術の進歩
枯草菌のゲノムサイズは、4Mbp(400万塩基対)ですが、2000年に発表される際には、10年近い時間と多くの装置と労力が必要でしたが、現在は、4Mbp程度のゲノムの配列決定ですと1台の配列決定装置を用いて1週間程度で終了してしまいます。この装置の開発には、細菌類での配列決定の経験が生かされて開発が進んでいました。それほど、配列決定の技術の進歩は日進月歩の勢いで進んでいます。
モデル生物に選ばれた枯草菌
モデル生物とは普遍的な研究に用いられる生物のことで、微生物では大腸菌や酵母など、動物ではマウスやメダカなどがあります。
枯草菌がモデル生物に選ばれた理由は、胞子を作る事とタンパク質を菌体外に放出する能力が高いからでした。グラム陰性生物(細胞膜の構造が異なります)のモデル生物である大腸菌は、胞子を作りませんし、タンパク質を菌体外に放出しませんでした。
大腸菌との比較
最初、枯草菌にこれらの能力があると発表された際には、大腸菌の方が先行して研究が進んでいた為、大腸菌を研究されている研究者の方々から、大腸菌でその様な能力が無いのにほとんど同じ大きさ(ゲノムの大きさもほぼ同じ)の枯草菌にその様な能力が備わっているはずが無い、と大変な反論を受けたと聞いております。
その当時大腸菌の研究者の方が人数も多く、中々枯草菌と大腸菌との違いについて認めてもらえなかったそうですが、実験機器の進歩や実験を重ねた結果、これらの能力が証明され枯草菌がモデル生物として決定し、胞子形成は進化や形態変化のモデルとして、菌体外タンパク質の放出能力は、タンパク質の工業生産のモデルに使える可能性が考えられていました。
・・・続きは後編 ”火星でも生存可能な生物?”