今年度のBMSカンファレンスは、神奈川県川崎市にあるShimadzu Tokyo Innovation Plazaで開催されました。「高度化する質量分析装置・測定技術とデータサイエンスが推進するBMS研究の未来」というテーマのもと、3日間に渡って講演やランチョンセミナー形式での技術発表、ポスターセッション等が行われました。
今回のBMSには、弊社から東京支社の営業スタッフ4名が、担当するお客様や得意とする分野等も異なる中で、それぞれが興味のあるプログラムに参加し、またお客様やメーカーの方との交流を通じて、多くの情報を入手することを目的として参加しております。多くのお客様にも情報発信をさせていただき、様々な分析ニーズへの手助けとなるような提案につなげていきたいと思います。 また、弊社ロゴマーク入りのノートパッドをノベルティとして協賛しました。講演中に発表内容の記録用として使用されている方も多く見られました。
それぞれの営業スタッフが参加して印象に残った講演内容の要旨について、下記に掲載いたします。
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●製薬クロマトグラファーの薬物動態質量分析
測定法をハイスループットで高速化にするためにIP-HILICで測定。カラム・UHPLCシステムを組合せて、分離を維持しながら分析時間を分単位から秒単位に短縮を実現。 ヒトPK測定、イオンペア試薬を使用するが、リスクを回避するためにカラムを改良し、チタン素材を使用して移動相についても組合せを最適化。
●細胞質量分析の開発から今後の展開 最小単位である細胞内における分子の動きを正確に捉えることが必要で、大量の細胞をホモジナイズする従来の方法では、平均的な情報しか得ることができず細胞個々の情報は失われてしまう。 細胞一個を顕微鏡で観察しながら細胞現象の発現と同時に起きる変化を検出するため、一個の細胞から細胞内成分を採取して、そのまま質量分析をすることができる単一生細胞質量分析法を開発。
●ICP-MSを用いる都市域環境水試料の超高感度多元素分析イオン源としてアルゴンICPを使用し、ガスも安価になり尚且つ超高感度な測定が可能。 特徴であるドーナツ構造は温度や電子密度が中心部で低く、周辺部では高い温度、試料エアロゾルをプラズマ中心部へ効率よく導入可能。 多摩川中水域の金属類の分布では下水放流のある下流ではEDTAが多く、キレート樹脂の吸着が多く見られた。
●レーザーアブレーションと大気圧イオン源を組み合わせたハイブリッドイメージング分析 ICP-MSでは、無機は測れるが有機(特にCNOF)の測定ができない。LC-MSとレーザーを組み合わせて無機と有機を測定できるように開発。 ZevoG2XSとJupiterの組み合わせについて発表。誘電体バリア放電とJupiterの気化サンプルをコリジョンさせてMSに取り込むという構造。 通常のJupiterのイメージングと比べて4倍以上の時間がかかるが、有機無機の同時分析できるようになる。
●MALDI-MSIにおける定量分析 ‐薬物から代謝物 MSI(質量分析イメージング法)による定量方法について、直接検量線用標準品を添加した模擬組織を用いる方法は信頼性が高い。独自の模擬組織によって検量線を作成し、質量分析イメージングを行うq-MSIを開発。 模擬組織は、臓器を生ではなく粉末にしてから作製することで、抽出の手間が解消できる。更にその模擬組織をLC-MSMSで測定した定量値は、ELISA法のそれと一致。従来の検量線作成よりも簡単かつ特別な装置や手技が不要になり、時間の削減が可能になる。
●有機フッ素化合物(PFAS)の水質分析における課題と展望 PFOS、PFOAの分析で、目的のピークと分岐鎖のピークを合算することが分析ルールとして決められている。現在、ピークの合算値が、標品・分析機関・分析条件によってバラつきがでてしまうことが問題視されている。どこにバラつきの問題が現れるかを解明するため、解決策を検討。 現状の研究結果は、①分析機器のメーカーによる感度差はみられない。 ②SIMではデータ差が出ない。SRMは標品とサンプルの濃度差が出てしまう。③移動相・分析条件の継続検討が今後も必要になる。
●CE-MSによるシングルセル解析の実現に向けて キャピラリー電気泳動MSは、LC-MSに比べてサンプル量が少なくてよい点や有機溶媒が不要であることなどから微量分析にメリットがある反面、濃度感度が悪いことや装置のセッティングが大変難しく、経験を要することがデメリット。 これまでCE-MSに必須とされてきたシース液(有機溶媒と緩衝液の混合液で、キャピラリー内部に印加したりスプレーを安定させる)を必要としない新規シースレスCE-MSデバイスの開発を行った。この装置により、通常のCE-MSより30~100倍の高感度分析が可能になった。
●大規模コホート研究における血漿メタボロームデータ活用の現在と未来 疾病には遺伝要因と環境要因があるが、環境要因の把握は遅れている。6.1万人分のメタボローム解析データや、5.4万人分のゲノム解析データなど、様々な解析データをjMorpとして公開中。 大規模検体解析は長期間に亘るため、その時々の手法や解析によって多くの課題があるが、分析間誤差を補正するため、市販の血漿をQC(quality control)検体として同時分析することで高精度に補正する手法を開発。 今後は、住環境や食文化が異なる海外との国際的なコホート協力が期待される。
●モダリティーシフトと製薬業界 モダリティーのシフトにより、疾病治療の現場では医薬品だけでなく、生理反応を人為的に喚起するデジタル機器の開発など、バイオフィードバックも起きている。 モダリティーシフトへの対応を海外と比較すると、海外企業は人を入れ替えるが、日本は同じ人が新分野を勉強する。日本企業では新技術習得に専念する余裕はなくOJT行っている。日本は研究レベルが低いわけではないが、安全性の確保が最優先のため臨床検査で遅れる。海外では、安全性も軽視はしないがタイムライン重視のため速い。 状況打開のため、国内製薬企業11社共同の「医薬品関連マテリアルズオープンプラットフォーム(MOP)」を立ち上げ、6テーマ(抗体分析/消化管吸収/抗体製剤/非晶質の安定化/核酸医薬/イオン液体)に取り組んでいる。
●脂質多様性の生物学から生命の本質に迫る ERATO予算にてプロジェクトを立ち上げ、脂質から生命の老化プロセスを研究。吸収する脂質種によってどの程度老化または若返るかについての仕組みの解明、仕組みが破綻した際の疾患解明に取り組んでいる。
●代謝物アノテーション拡張に向けた質量分析データサイエンス 質量分析装置を用いたメタボロームの測定におけるデータの取り扱い、およびデータ共有と再利用法についての議論。機械学習機能を有効的に活用することで膨大な取得データの解析に役立っている。
●生体試料中のモダリティー分析への挑戦と質量分析計の活用 創薬モダリティーのパラダイムシフト対応として、低分子質量分析から中高分子にもフォーカスを当て、多様なモダリティーに対応した測定プラットフォームの整備をテーマとしている。TOFMSを用いているが、核酸サンプルではキャリーオーバー化が問題とされている。ハード面をバイオイナ―ト化することで、問題であるキャリーオーバー化を低減できる結果が得られた。さらなる改善は必要だが、今後の問題解決へ向けての大きな道筋となった。
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