2017 ASMS(American society for mass spectrometry)

#レポート2017.07.21

月日:2017年6月4日(日)~8日(木)
会場:アメリカ インディアナポリス

 今年のASMS(American Society for Mass Spectrometry)は6月4日~6月8日の5日間の日程で、アメリカのインディアナ州インディアナポリスで開催されました。
私は初めてASMSに参加をしたので、その規模に大変驚かされました。約700枚を超えるポスターセッションと180以上のメーカー出展に加え、オーラルセッションの数も日本ではみたことのない数が行われておりました。また、スケジュールも非常に特徴的で、ポスターセッションやオーラルセッション以外に、朝は7時からBreakfast Meetingと題して各メーカーによるセミナーをホテルの一室で朝食と合わせて聞くことができます。また、夜もHospitality Suitesと題してメイン会場近隣のホテルで各メーカーによる機器展示があります。各メーカーのユーザーズフォーラムが一挙に開催されているようなイメージです。日本のお客様は従来よりも少ないようでしたが、学会としては大変盛況でした。

各メーカーは最新の機器やアプリケーションの発表がありました。サーモフィッシャーサイエンティフィック社からは主として3つの新しい製品の発表がありました。
1つ目はOrbitrap Fusion Lumosの新しい機能です。分解能を1Mまで上げることが可能で、イオントラップ内でUVを照射する「UVPD」、そしてAPD(Advanced Peak Determination)という機能です。FT-ICRクラスの分解能をOrbitrapで実現させました。圧倒的な分解能で精密な同位体情報を取得することで、また低分子量の元素組成をより正確に出すことが可能になります。特に多様な構造をもつターゲットの定性、定量に役立ちます。UVPDは、イオントラップ内でUVを照射することでCID、HCD、ETDで得られなかった構造情報を得ることを可能にしました。例えば脂質のアルキル鎖Cの二重結合の部分構造情報を得られる可能性があります。APDはアルゴリズムの改良と装置本体の高い質量分解能でペプチドを価数ごとに分離ができ、その同定数が25%向上します。APDは既存装置へ追加搭載はできませんが、1Mの分解能とUVPDの二つのオプションは既存装置へのオプション機能として追加可能です。
2つ目はQ Exactive HF-Xです。Q Exactive HFの上位になる、Q Exactiveシリーズ最上位機種になります。最大の特徴として、分解能7500で40Hzの超高速スキャンを可能にしています。分析のスループット向上が最大のメリットで、Q Exactive HFと同じデータ量を約半分の時間で取得することが可能です。ハード面での変更点は、Orbitrap Fusion Lumosで採用されているフロント部(イオンファンネルとハイキャパシティトランスファーチューブ)を新しく採用しています。
3つ目はTSQ AltisとTSQ Quantisです。TSQ QuantivaとTSQ Enduraの後継機としての新しいトリプル四重極型LC-MS/MSになります。TSQ Altisはイオン源から検出器までブラッシュアップされており、他社にない安定性と再現性を実現した装置です。フロント部分はQ Exactive HF-Xと同様に入れ替えており、ハイキャパシティ―トランスファーチューブでイオン導入量を最大化し、イオンファンネルでより効率的にイオンを真空部へと導きます。また、スキャンスピードも600SRM/secと強化され、分析者がサイクルタイムのセグメント化から解放される可能性もあります。

サーモフィッシャーサイエンティフィック社以外からは、島津製作所社からコンパクトなMALDI-TOFとコリンジョン搭載のICP-MS、Sciex社からコンパクトなQ-TOF、Agilent社からは非常にコンパクトなトリプル四重極型LC-MS/MSが新製品として展示されていました。なかでも、Agilent社のトリプル四重極型LC-MS/MSは正面からみるとHPLCのユニット並みのサイズで、今後日本でリリースされた時に価格と性能がどれほどのパフォーマンスを発揮できるのか大変興味深い製品でした。
他社の新製品がどちらかといえば「コンパクト化」に軸を置いているものが多いなか、サーモフィッシャーサイエンティフィック社はハイスペック路線での発表となりました。しかしながら、オーラルセッションではサーモフィッシャーサイエンティフィック社の新製品説明は会場内に収まりきらないほどの人気で、Orbitrap技術の世界的な人気を実感しました。

今回の渡米の目的は、ASMS参加だけではなく、弊社の主力輸入メーカーでもあるUnited Chemical Technology(UCT)へ訪問をし、トレーニングを受けることでした。
初日にUCTの主力製品であるSPEやQUECHERSの日本のマーケットに関して英語でプレゼンをおこない、その後に工場見学と商品ラインナップの紹介を受けました。2日目は実際にラボで製品を使ってトレーニングをおこないました。トレーニングでは、尿専用プッシュスルー型の前処理カラムであるClean Screen Fastの実演をおこないました。通常のSPEと異なり、希釈溶媒と尿を通液するだけで前処理をおこなえるUCT独自製品で、圧倒的なスピードと簡便さを体感することができました。さらに、QUECHERS法におけるUCT独自製品であるSpinFiltrは、QUECHERS法の精製工程をフィルター内蔵の遠沈管を使用することで、従来法の上澄み採取とフィルトレーションの行程を省くことができる画期的な製品です。日本でもQUECHERS法は今後主流になる可能性が高いため、初めて実際の行程を目の前でみることができて大変参考になりました。
実際に現地に行ってみて私が感じたことは、UCTはその商品自体の特徴も強みではありますが、一番の強みはトータル的な問題解決力にあるということでした。クロマト分析の前処理からカラムまでトータルコーディネートできるように商品がラインナップされています。製品は自社で開発、ラボには複数の装置を所有し研究者がいます。例えば顧客の要望にそったSPEのアレンジや、「この問題を解決するためにどうしたらいいか?」という顧客の相談やデモ分析等も行うことが可能です。これがアメリカでトップシェアを誇る最大の要因のように私は感じました。今後日本で代理店として展開するなかで、私たちもこの点を強みにして販売していこうと思います。

来年以降も参加し、この業界の最新情報を中部科学機器として日本のお客様に紹介し続けていきたいと思います。

担当:東京営業所 H.Y.

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