国際質量分析会議(IMSC)は加盟40ヶ国による世界最大の質量分析国際会議であり、各国の研究機関、大学などから最新の質量分析の応用、研究、開発などの成果を発表する国際会議です。
残暑続く中、山に囲まれた京都はさぞ暑いだろうと覚悟していましたが、意外にも過ごしやすい気候で、会場となった京都国際会館は各国の研究員、学生、企業関係者などで連日、賑わいを見せておりました。
私は国際学会に参加させて頂くのが初めてでしたのでとても楽しみにしており、各オーラル、セッション、企業ブースをくまなく見て参りました。その中で特に興味を感じました事に関しましてご報告致します。
【オーラルおよびポスターセッション】
オーラルおよびポスターセッションでは、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)を使用した研究発表が、いくつか見られました。私たちがお客様にご紹介しておりますProsolia社のOMNI Sprayに相当するDESIは、電荷を与えた溶媒を窒素ガスとともに、ステージに載せた試料に吹き付けることでイオン化させます。前処理が不要なので迅速な検査が可能で、吹き付け位置を精密にコントロールすることでイメージングも可能です。吹き付ける溶媒はシリンジポンプによって供給され、溶媒の種類を変えることで、様々な試料のイオン化が可能です。錠剤などの品質チェックでは、おもにFT-IRを用いて行われますが、OMNI Sprayを使用することで、品質チェックとともに異物の同定も可能です。また、FT-IRとともにクロスチェックをすることで、より正確に様々な情報を得ることができます。果物の品質安全に関する発表で、DESIが使用されていました。
試料を直接イオン化することにより、前処理不要などの時間的利点が考えられます。また、標準品が手に入りづらい物質の場合などでも分子量、フラグメンテーション情報をプラスすることで物質同定に役立つのではないかと感じました。弊社のお客様でも、品質チェックなどで質量分析計を使用されているケースが多いので、アプリケーション例を含めた最新情報などを紹介したいと思います。
イオン化技術に関する報告では、分子量が大きいタンパク質複合体を多価イオンとしてイオン化するために、m-NBAなどの試薬を添加してESIでイオン化する方法。また、固体マトリックスに試料を塗布し、レーザーを照射しイオン化させる方法などが紹介されておりました。これらの方法では、従来のESIのように試料を解裂させずに、多価の分子イオンとして検出させることが出来ます。この技術を持ってすれば、高機能・高分解能MSによる高度な構造解析が期待でき、薬物を含んだ血液スポット、唾液、そして尿など体液中の小分子の迅速検出も可能だろうと思いました。
環境分析分野では、山頂大気中のダイオキシン類のようなPOPs(難分解、高蓄積、高移動性、有害性物質)のGC/MS/MSによる測定結果や、GC/TOFによる堆積した雪の中のPCBの測定、大気エアロゾル中のメタクリル酸の測定についての発表がありました。
生産、使用が規制されているPCBが、雪の中に含まれていることは衝撃的でした。昔から融けないで残っている雪の中に、大量のPCBが含まれ環境に放出されていることを知り、恐ろしく感じました。
PCB、ダイオキシン類と言えば、HR-GC/MSのイメージがありましたが、今回の発表では、GC/MS/MS、GC/TOFでの分析をメインで行っていました。GC/MS/MS、GC/TOFの代用の利点、応用の広さをお客様に発信していきたいと感じさせる発表でした。
【企業展示ブース】
イオンベンチ社では、HPLC用のキャスター付台Elevating HPLC/UHPLC IonBenchの展示がありました。60.5cmから90.5cmの電動昇降機能を有し、耐荷重は300kgとなっております。ダイネクス社のUltiMate3000など各モジュールを積み上げて高さがあるHPLCは、溶媒交換などのメンテナンスに苦労することがあるので、高さを調節できる作業台は非常に便利であるとともに、キャスターによる免震効果も期待できます。私はHPLCの据付、修理等のサービスも行っています。お客様から時々、目線よりも装置が高くならないようにして欲しい、または、装置が高すぎて頂上に手が届かないというリクエストやご相談をいただくことがありますので、こちらのベンチをお客様にお勧めしていきたいと思いました。
バイオタージ社では、加圧式サンプル処理マニホールドPressure +48 & 96を展示していました。Pressure +シリーズは電源不要で、96ウェルプレート、1.3mLおよび6mLサイズのSPEカートリッジを処理できる加圧式マニホールドです。従来のバキューム式ホルドと異なり、個々に独立したユニークな加圧機構を採用しているため、サンプルの粘性を問わず均一なフローを生み出します。様々なサンプルの同時処理に効果を発揮すると思われます。
Zivak社では、血清、血漿中のビタミンD代謝物を測定するためのHPLCシステムOMH-200BD Vitamin D2-D3が展示されていました。システムは各ステップを自動化できるように構成されており、2本のロボットアームで前処理、ボルテックスミキサー、遠心分離機、HPLCポンプ、カラムオーブン、そしてUV検出器で構成されています。ビタミンD2は光、熱に不安定で、血清中に少量含まれていることから、これらの量を測定することは臨床医学において、ホルモン作用など健康状態を把握するのに重要です。迅速に、正確に測定するためにはこのような機器も必要とされています。
各社の展示物は、質量分析計のフロントLC、前処理作業を、より便利に、安全に、そして効率的にする工夫を凝らしており、それはもはやメーカーという垣根を越えて、一丸となって質量分析の研究手法をより万能なものに進化させようという意気込みを感じました。
今や質量分析計は、定性、構造解析、バイオマーカの定量、環境・食品安全分析など、分野を超えて幅広く応用されており、非常に高感度で有力な手法です。また、質量分析計の高分解能、ハイスループット化が進み、プロテオミクスでは翻訳後修飾の研究も多くありました。今まで治療が困難であった疾病についても、治療の鍵が見つかると期待します。
ある研究では、これまでアミノ酸配列解析、微量定量がメインであったプロテオミクスにおける質量分析の応用についての発表がありました。プローブをタンパク質間相互作用やフォールディングの解析に用いることで、蛍光、UV吸光度、ラマン、IR、NMR、円偏光二色性よりも多くの情報を得られるものもあり、質量分析にはまだまだ応用の可能性があるという点で興味を持ちました。
既存の技術を応用した新しいイオン化法についての発表もありましたので、今後も新たな商品が開発されることが予想されます。本学会は国際大会ということで、発表はほとんど英語で行われており苦労いたしましたが、私自身の良い勉強となり刺激にもなりました。今後もこのような学会を通じて、皆様に新技術をお伝えしていきたいと思います。 |