2007 ASMS (American society for mass spectrometry)

#レポート2007.06.27

会場:アメリカ インディアナ州インディアナポリス
月日:2007年6月3日(日)~6月7日(木)

 今年も質量分析学会ASMSが6/3(日)から7日(木)までの5日間の日程で、アメリカのインディアナポリス Indiana Convention Centerにて、開催されました。

今回のASMS学会視察の目的は、次世代の質量分析装置並びに前処理装置など研究に役に立つ製品の情報収集とメーカーの新製品調査です。
最近は、イオンモビリティー、電場型FTMSなど実用性を兼ね備えた新しいテクノロジーが多数製品化されており、今後の展開が気になるところです。AからGまで7会場での口頭発表と、毎日600近いポスター発表と質量分析に関わるメーカー展示があり規模の大きさに驚きました。特に、バイオマーカー探索やプロテオミクス、メタボロミクスなどの研究が非常に多く発表されていたように感じました。また、中国を初めとするアジア圏からの参加者が非常に多く、質量分析のニーズを感じました。

今回特に注目したところは2点ありました。
1点目はイオンモビリティーです。同質量のイオンでも、構造などが違えば分離できるもので、すでに2社製品化もされております。メーカー各社、各研究者によっていろいろな装置開発が行われており、異性体の分離分析や、定量分析時にノイズとなるイオンの除去によるSN比向上などが期待されています。
製品としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のFAIMSとWATERS社のSYNAPTがあります。一価イオンと多価イオンの分離やサンプルイオンとマトリクスイオンの分離によるSN比の向上が期待でき、ロイシン、イソロイシンなど異性体分離が可能になるため、プロテオミクスユーザーにも必要なテクノロジーです。

2点目は電場型FT/MS及びFTICR(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance) フーリエ変換質量分析装置についてです。高額な質量分析装置ですが、操作性もかなり良くなり、電場型の登場で設置の制限も少なくなりました。更にECDだけではなく、今までリニアイオントラップ型質量分析計のみに搭載されていたETDなどのアプリケーションも増えてきました。ETD (Electron Transfer Dissociation)は分子量の大きなペプチドやリン酸化ペプチド解析に有用な新しいイオン解離法ですが、サーモフィッシャーサイエンティフィックのOrbitrapにもETDが搭載されるようになりました。プロテオミクスでのb、yシリーズイオンのみならずc、zシリーズのイオンのデータからも高質量精度、高分解能での解析、同定が可能になります。
メタボロミクス、脂質のデータベースや検索エンジンなど今まで製品化されていないものも多く発表があり、代謝物IDなども高分解能、高質量精度に対応したものなどFT/MSの可能性を広げる研究、製品発表も多くありました。
また、日本では磁場型が多い環境分析分野でのFT/MS分析による環境汚染物質の高分解能、高質量精度での同定など多数の研究発表があり印象的でした。

新製品としては、サーモフィッシャー社からガスクロマトグラフトリプル四重極型質量分析装置TSQ Quantum GCがありました。従来からのTSQシリーズにGCのインターフェースを搭載し、高感度、高分解能での定量分析が可能になります。食品中の残留農薬分析でも10ppbを楽に検出し、ソフトも使いやすさに定評のあるXcaliburが基本で、レポート作成も簡単になります。

ポスターセッションでは、独立行政法人 製品評価技術基盤機構様からアスペルギルス オリゼのプロテオーム解析の発表がありました。アスペルギルス オリゼは味噌、醤油などの醸造に不可欠な麹菌で、この日本固有種を解析し、発酵業界活性化の一助にと考えられています。ゲノムから遺伝子情報を予測し、プロテオーム解析によりタンパク質の同定、遺伝子のタンパク質コード領域修正などを行っていらっしゃいます。また、味噌、醤油の味を左右するタンパク質を培養条件の違いによって発現させ、解析もされています。以上のことから、産業界にも質量分析が欠かせない存在になっていることを改めて感じました。

今回ASMSに初めて参加しましたが、予想以上に熱気とパワーを感じました。今後も欧米のみならず、日本をはじめ中国などアジア圏でも実用的な研究が更に増えてくると思います。また、クリニカルな分野での質量分析の発表も多数あり、バイオマーカーの定性、定量による成人病診断など、更に医学の発展に繋がるものと確信しました。私も最新のテクノロジーを搭載した質量分析装置を提案して、クロマトやMSに精通した代理店として社会貢献して行きたいと思います。

担当 東京営業所 K.M

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